名門が魅せる至高のセッテピエゲ、胸元を飾るフィレンツェの美学
アット ヴァン ヌッチのネクタイを首元に巻いた瞬間、指先に伝わるのは驚くほどしなやかで、空気をふんだんに含んだシルクの質感だ。トスカーナの古都フィレンツェ(Firenze)にある小さな工房で、熟練の職人が一針ずつ糸を通す。芯地をほとんど使わず、一枚の生地を丹念に折り畳んで仕立てられるその佇まいは、効率化と量産を突き詰めた現代の工業製品とは完全に一線を画している。
胸元に自然な陰影と立体的で優美なドレープを描き出すこのハンドメイドネクタイは、単なるビジネスアクセサリーの枠を軽々と飛び越えていく。クラシコイタリア(Classico Italia)を愛好する世界中の洒落者たちにとって、アット ヴァン ヌッチ(Atto Vannucci)のコレクションは、自身の美意識と品格を無言のうちに語る至高の選択肢にほかならない。
手縫いの芸術「セッテピエゲ」が胸元に生み出す唯一無二の陰影
一般的なネクタイには厚手の芯地が入り、機械縫製で均一に形が整えられている。だが、アット ヴァン ヌッチの代名詞であるセッテピエゲ(Settepieghe=イタリア語で7つ折り)に、そうした堅苦しい芯材はほぼ存在しない。贅沢に使われた極上シルクを幾重にも手作業で折り込み、職人の絶妙なテンションによる手縫いでまとめ上げる。
仕立て上がったタイは驚くほど軽く、まるでシルクスカーフを無造作に結んだかのような柔らかさを見せる。結び目の下からこぼれ落ちる豊かなドレープと、ふっくらとした剣先の表情。計算されたアンバランスさが生む立体的な陰影は、見る者の視線を惹きつけて離さない。
手縫いだからこそ生まれる「ゆとり」と「遊び」。一日中首元に収まっていても窮屈さを感じさせず、動くたびに自然な揺らめきを放つ。効率至上主義の時代にあって、あえて手間暇のかかる伝統技法に固執する理由が、その胸元を見れば一瞬で理解できる。
フィレンツェの工房「セブンフォールド社」と加賀健二の哲学
この比類なきネクタイを生み出しているのが、フィレンツェ近郊に拠点を置くセブンフォールド社(Seven Fold S.r.l.)だ。工房を率いるのは、日本人として本場イタリアのサルトリア界に深く根を下ろした加賀健二(Kenji Kaga)である。
加賀が貫くのは、かつてフィレンツェに存在した名工たちの技術を絶やすことなく、現代にアップデートするという確固たる意志だ。アトリエでは、今や絶滅の危機に瀕している熟練のトスカーナ職人たちが、指先の感覚だけを頼りに針を走らせる。ミリ単位の誤差を機械で制御するのではなく、布地の個性に合わせて手の加減を変えるのだ。
ヴィンテージのアーカイブ生地から着想を得たオリジナルファブリックの開発、色使いへの妥協なき追求。加賀の美学とイタリアの伝統職人芸が共鳴し合うことで、国境を超えて愛される唯一無二のプロダクトが生み出され続けている。
タイ・ユア・タイのDNAを継承し、更なる高みへと昇華させた軌跡
アット ヴァン ヌッチを語る上で欠かせないのが、フィレンツェの伝説的セレクトショップ「タイ・ユア・タイ(TIE YOUR TIE)」の存在だ。創業者フランコ・ミヌッチが提唱した「スフォデラート(裏地なし)」やセッテピエゲの美学は、世界のメンズサルトリアルファッション界に一大センセーションを巻き起こした。
その名作タイの生産を一手に引き受けていた工房の技術と精神を正統に受け継ぎ、自らのブランドとして立ち上げたのが加賀率いるセブンフォールド社である。偉大なヘリテージを尊重しながらも、加賀はそこに独自のモダンな解釈と洗練された色彩感覚を注入した。
過去の名作の単なる再現ではない。現代の柔らかな仕立てのスーツやジャケットに完璧に馴染むバランスを再構築したことで、ブランドは独立した存在として世界中のエンスージアストから熱狂的な支持を集めることとなった。
ピッティ・イマージネ・ウオモで絶賛された2026年最新作の全貌
世界最大のメンズプレタポルテ見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」の会場で、今季のアット ヴァン ヌッチのブースはひときわ熱い視線を集めた。披露された2026年最新作は、ブランドの原点であるクラシシズムへの回帰と、アヴァンギャルドな素材アプローチが見事に融合している。
今季の主役となるのは、かすれたような風合いが美しいヴィンテージ調のジャカードや、敢えて不均一なフシを残したスラブシルクを用いたセッテピエゲだ。トスカーナのオリーブやテラコッタを思わせるアースカラーに、スモーキーなペールトーンを差し込んだカラーパレットが新鮮な空気を吹き込んでいる。
展示会に訪れた各国のバイヤーが口を揃えて称賛したのは、その圧倒的な「軽さ」と「表情の豊かさ」だ。タイドアップスタイルが多様化する現代において、タイを締める行為そのものを歓びに変える力作が揃った。
伊勢丹新宿店メンズ館やBEAMS Fが認める限定モデルの真価
日本国内におけるアット ヴァン ヌッチの存在感を盤石にしているのが、日本のトップリテーラーとの緊密なパートナーシップだ。なかでも伊勢丹新宿店メンズ館やBEAMS Fといった名門は、毎シーズン特別な別注モデルを企画し、顧客を沸かせている。
これらの限定モデルは、通常コレクションにはない希少なデッドストック生地の採用や、日本人の体型とスーツのラペル幅に合わせたミリ単位の剣先調整が施されているのが特徴だ。例えば、英国調のヘビーオンスシルクをあえてフィレンツェの手縫いで仕立てた一本や、極限まで芯を抜いたリラックス感溢れるプリントタイなど、愛好家の心をくすぐる仕様が揃う。
店頭に並ぶと同時に完売するモデルも珍しくない。既製服の枠を超え、まるでビスポークのような特別感を味わえることこそが、別注モデルが持つ抗いがたい真価である。
大人の装いを劇的に格上げする、至高のVゾーン構築術
アット ヴァン ヌッチのタイを手に入れたら、結び方にもこだわりたい。芯地のないセッテピエゲを結ぶ際は、力を入れすぎず、空気を含ませるようにふんわりとノットを作るのが鉄則だ。ディンプル(くぼみ)を深く美しく刻むことで、胸元に吸い込まれるような立体感が生まれる。
合わせるジャケットは、肩パッドを排したアンコンパウンデッドなナポリ仕立てや、フィレンツェスタイルの柔らかなテーラードが抜群に似合う。リネンやフレスコ、上質な起毛フランネルなど、素材感のあるファブリックと合わせることで、手縫いタイならではの味わいが何倍にも引き立つ。
華美なロゴや派手な柄に頼るのではなく、素材の風合いと職人の手仕事で魅せる。大人の品格とは何かを知る男性にとって、この一本はワードローブの核となり、日々の装いを静かに、しかし劇的に格上げしてくれるはずだ。 (出典: アット ヴァン ヌッチ(Yahoo!ニュース))